*** 瓢箪から愛を ***


見事に失敗した木の葉崩しから一月ほど経った今
俺は弟の様子がオカシイことに気がついていた。じゃん。

怪我も完治し、いつも通り冷静すぎるほど冷静に任務をこなす弟…我愛羅。
だけど、任務の緊張の中にいて、時折聞こえる溜め息に気づかないほど
この俺カンクロウ様は鈍感じゃねぇ。

まぁ、ここんとこやたらと化粧が濃いテマリに
「何だってそんなに化粧が濃いんだ? 惚れた奴でもできたか?」
と言って、テマリからカマイタチの術を喰らうほどには鈍感だけどよ。

いや、そんな俺のサイドストーリーは置いといて…。
気になるのは我愛羅の溜め息の理由だ。

退屈そうに溜め息を吐きながら、立ちはだかる忍を砂で葬ることはあっても
こんな風に人間らしい溜め息を吐くのは初めてで
兄貴としては気になって当然じゃん?

だから…俺はさりげなく訊いてみることにした。

「なぁ我愛羅。 お前のその溜め息の理由はなんだ?」
うわぁ…さりげなくねぇな〜〜…一瞬そう思ったけど言っちまったもんは仕方ない。

クレンジングオイルを顔に塗りたくりながら隈取りを落としつつそう聞いた俺に
我愛羅は少しだけ目を見張ったものの、意外にあっさりと口を開いた。

「貴様には関係ない。 殺すぞ」

いや…それじゃこの話し終わっちゃうから。
つ〜か、そうやってすぐ『殺す』とか言うのヤメてあげて!
兄ちゃんちょっとチビりそうになったじゃん。

オイルでベタベタになった顔を洗い流し、洗面所から戻ると
我愛羅は自分の机で小さな紙のようなものを食入る様に見つめてた。

「それ何だ?」

今しがた『殺すぞ』とか言われたような気がするが
チャレンジ精神と好奇心旺盛な俺は、さっくりとそう訊いてみる。

しかし、また『殺すぞ』なんて言われそうだったから
我愛羅から答が返ってくる前に、俺は我愛羅が手にしていた紙を
一流の忍らしい素早さでひったくったじゃん。

当然、その後すぐに砂縛柩を喰らい、三途の川まで行ってきたけど
その紙きれが写真だったことと、その写真に写っていた人物を見れたんだから
俺の行動は無駄じゃなかったはずだ。

「ななななっっなな…ナルトの写真じゃん!!!」
「みぃ〜〜〜たぁ〜〜〜〜なぁ〜〜〜〜〜」
「ぎぃやあああぁぁ〜〜! 見てません、僕は何も見てませんっっ!」

あまりにも恐ろしい我愛羅の表情に
俺はもう一度三途の川へと旅立ちそうになったが、グッと踏み止まった。

「ってか、我愛羅っ! お前が最近ヘンなのは…そいつのせいかっ!?」
「俺が、ヘンだと?」
「無自覚か?」
「…」
「なんで、ナルトの写真なんか…ってか、いつの間に?」
「テマリから貰った」
「なんで…テマリが…」
「テマリは木の葉の何とかという忍と文通している」
「ぶっっ、文通っ!?」

テマリが誰かと文通しているという事実よりも
俺にとっちゃ我愛羅から『文通』という単語が出たことに驚きだ。

「我愛羅…ナルトの写真をそんな穴が開くほど眺めて…お前ひょっとして…」
「…解からん…この気持ちが何なのか…」
「ど、どんな気持ちだってんだよ?」

恐る恐る尋ねた俺に、我愛羅は淡々と言葉を滑らせやがった。

ナルトから触れられた(ぶん殴られた)時のことを思い出すと
胸が締め付けられるように苦しくなる、とか。
その触れられた(ぶん殴られた)箇所が、今でも熱く感じ
それを思うと息苦しくなって、心臓の音がやたらと大きく感じる、とか。

「はぁ…そりゃまた…何とも…」

一頻り熱く語った後、何と言って良いのか解からず
曖昧な返事をする俺にむかって、更に言葉をかぶせてきた。

まだあるのかよ…正直俺はそう思ったが
珍しく瞳を輝かせて喋りまくる我愛羅を止める術は
…俺にはなかったじゃんよ。

写真の中で眩しそうに目を細めているナルトを見ると
身体の奥の方から何かが込み上げてくる気がして落ち着かない、とか。
ニッコリと笑った口元に一旦目が行ってしまうと
どうしてもそこに触れたい衝動に駆られ
それを抑えるのは死にそうなほどに辛い、とか。

明らかに欲情してんじゃん!!!!

弟が初めて「殺すべき相手じゃない人」に出会い、その人物を
特別視するのは良いことのような気がするが…
我愛羅のそれは恋と呼ばれるソレじゃん!?

「まてっ、我愛羅! そりゃヤベェよ!」
「何がだ」
「だって…おまっ…初恋が…男て!」
「初恋…?」
「そうじゃん。 ナルトへのその気持ちは…恋じゃんよ」

ビシイイィッと我愛羅を指差して宣言する。
決まった…そう思ったのも束の間

「人を指差すな」

絶対零度の声音で言う我愛羅の砂が俺の人差し指を包んだ。

メキメキ

…いや…骨の音が…っ…イタイから!

「あ〜〜イテェ…」
「…〜」
「あ、また溜め息吐いたな」
「こいつの事を考えると、おかしくなりそうだ」
「困ったなぁ…」
「逢いたいな…」
「は?」
「逢って、このおかしな気持ちをどうにかしたい」
「そりゃ…どうかな…里が違うし…」
「連れて来い」
「・・・・・・・・・・・・・・・へ?」
「うずまきナルトを…今すぐココに連れて来い」

えぇ? 無理じゃん!
という間もなく、俺の顔ダケを我愛羅の砂が覆った。

「連れて、こい」

ゆっくりと紡がれる我愛羅の言葉には拒否を認めない響きがあるんだよな〜。

が、今はそんなことはどうでもいい。
とにかく顔の砂を何とかしろ! 窒息する! 息できねぇって! 死ぬううぅぅ〜!

頭を大きく上下させて、OKの意を告げると
漸く砂が解かれ、やっとのこと空気を取り入れることができた。

これが1週間前のこと。

で、今。
俺はクロアリを我愛羅の前に置いた。

クロアリの中からはドタンバタンと何かが暴れる音が聞こえるが…
これが何かは、賢い人は解かんじゃん?

パカッとクロアリの胴の部分を開くと
勢い余ったのか、ヘンな体勢で転がり落ちた得物―― うずまきナルト。

床をゴロゴロと転がるナルトを見て、我愛羅の目が見開かれる。

あぁ…今の今までナルトの捕獲なんて嫌だったけどよ
我愛羅のそんな顔が見れるんなら、やって良かったと思うじゃん?

「なんて…嬉しそうな顔してやがんだよ」

我愛羅のこんなに喜んだ顔なんて…俺は見たことねぇ。
こんな顔が出来るなんて…俺ぁ知らなかったじゃんよ。

情けねぇ兄貴だよな。

やべぇ…なんか目の奥が熱くなってきやがった。

「俺の役目は終わりじゃん? 後は我愛羅、自分で何とかしろよ」
俺は目元を潤ませるモノを覚られたくなくて
慌てて我愛羅に背中を向けて、我愛羅の部屋から出ようとした。

「待て…カンクロウ」
「いや、礼はイイから…」

我愛羅からの礼なんて…なんだかくすぐってぇじゃん?

「何を言っている…ナルトに何か冷たい飲み物を持ってこい」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・おぉ」

なんて奴だ…。
そう思い、こっそりと一睨みしようとドアを開けた時に振り返ったら
我愛羅がナルトに手を差し伸べていて…
それがまた妙に…何とも言えず照れくさそうな顔でな。

だから、「ま、いっか」なんて呟いて我愛羅の部屋を出たんじゃん。

*****



「何だよ! ここ、何処だってばよ!」
「砂隠れの里だ」
「なんでオレが。 あーっ! お前まさか…まだオレと勝負を?」
「違う」
「じゃぁなんでこんな誘拐みたいなまねすんだよ」
「お前に会えば解かると思った」
「は?」
「俺が毎日お前の事を考えているのは何故なのか…
お前を想うと、胸が苦しくて堪らなくなるのは何故なのか」

ぐい、と詰め寄る我愛羅にナルトは一歩さがる。
それを繰り返すうちに、ナルトの背中は壁にぶつかり逃げ場を失った。

「…。 で、何か解かったってのかよ?」
「あぁ。 ハッキリとな」
「な、なんだってば?」

ナルトの喉はカラカラだった。
紡がれる言葉は、自分の気持ちと同じだろうか、と。

破裂しそうに暴れる心臓に気づかないふりをして
我愛羅の目をじっと見据える。

我愛羅の唇の動きを追うと、それはナルトが期待した通りの…
そして自分が我愛羅へと感じる気持ちと全く同じ動きをした。

「俺はお前が好きだ。 こうしている今も、好きで堪らない」

偶然だってばね、オレも我愛羅が好きだってばよ。
おずおずと、そう言ったナルトの声をドアの外で聞いたカンクロウ。

今の我愛羅の顔を見れないことに少し残念な気がしたが
これから先いくらでも見れるだろうと、そっとその場を離れた。

珍しく鼻歌などを披露するカンクロウの姿を
この後何人もの忍が目撃することになる。







「夜が暗いわけ」の音鳴さまより
サイトオープンのお祝いに頂きました!!
管理人の大好きなギャグちっくで、
我ナル+カン兄とリクエストしちゃいましたw
こんな素敵なお話を頂けるなんて
幸せ過ぎて恐い〜ww
音鳴さま、ありがとうございました♪